貝葉に見る般若心経の秘密 ダンマパダ

第8章  (103)
戦いにおいて百人に勝つよりも、
唯一つの己に勝つものこそ、
最上の勝利者である。
仏陀は実に色々のことを説き、哲学的なことも、宗教的なことも説いています。
しかしそれらは、例えば空にしても縁起にしても教えのための手段なのではないでしょうか。
この詩はご覧の通りです。己に勝つことは、百人の敵に勝つより優れたことだと言っています。仏陀の最終目的は実にここ、すなわち己に勝つことを学んでほしいと言うところにあったように思います。
私はただいま入院生活を余儀なくされているのですが、実に様々な人と接することが出来ました。
最初の病院では8人部屋、転院してから4人部屋ですが、多くの方が入院され、退院していかれました。
ここで、自己を制すると言うことについて如何に難しいものであるか見せ付けられた気がいたしました。
同室の方なのですけれど、当然入院しているのですから病院食としてカロリー計算された食事が用意されているのですが、時々こっそり病院を抜け出し、すぐ前のコンビニに行って色々の食べ物を買ってこられます。
カリントウ、煎餅、飴、バナナ、果ては肉まんまで買ってこられます。
私も人事ながら心配になり、間食はもう少し控えられたほうがいかがですか、と申し上げたほどです。
その方の言われるのに、「いや実によく分っています。身体をあちこちこんなに悪くした原因は食べ過ぎにあることもわかっています。先生からもしっかり言われています。でも、やめられないんですよ」と。
これは、ただ食べ物についてだけの話ですけれども、人として生活している以上色々のことが出てまいります。その一つ一つにおいて、自分はこうしたいと言う要求が出てまいります。しかしその自らの要求を自ら制することは非常に難しいものなのです。他人に注意することはできても自分に注意することはなかなか難しいことです。
仏陀の言葉を借りて言えば、煩悩を制せよ。ということです。これが出来た人こそ、最上の人と賞賛されるべきなのです。
煩悩は心の働きですが、煩悩ではない心の働きはあるのでしょうか。
煩悩をなくして、その別の心に切り替えよと言っているのでしょうか。
いやそうではありません。
人間の心の働き全部が煩悩なのです。ですから煩悩を無くするには植物人間になるか、死を選ぶしかなくなってしまいます。
仏陀は決して煩悩を無くせとは説いておられません。
煩悩を制せと言われているのです。好き勝手におもむくままに為していてはいけません。正しいことと正しくないことを見極め、心の要求を制御することです。
しかし我慢しながら制しているうちは賢者の領域には到っておりません。自然にそのように正しい行いが出来るようになって、そのように為すことが楽しくなって初めて賢者と言われるのです。
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